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あなたは公示価格を知っていますか?土地の価格査定の際、近い場所にある公示価格「等」を参考とし、査定の根拠にしています。ここで「等」を付けましたが、公示価格と共に地価の目安に使う都道府県地価調査の基準価格もあるのです。
また相続税算定の根拠となる相続税路線価は聞いた事があると思いますが、同様に固定資産税にも「路線価」があることは、ほとんどの方が初耳ではないでしょうか?では、こうした国・地方公共団体が一般に公開している価格はどのようなものでしょうか?
- 「地価公示・地価調査って何だろう?」
- 「相続税路線価を土地査定の根拠に使われたけど、実勢価格とどの位乖離しているの?」
- 「銀座の土地が日本一高いと言ってもビルが建っている土地価格が何故わかるの?」
様々な価格査定や税額算出の根拠に使われるこれらの「公的価格」のしくみはあまり知られていません。そこで、実際に評価作業を担当していた不動産鑑定士の私が詳しく解説します。
公示価格とは?不動産鑑定士が全て解説
公示価格は「地価公示」で評価された価格のこと
不動産に興味のある方なら当然、全く関心のない方でも毎年春頃と秋の初めに新聞各紙の一面で、下記のような大見出しが付いた記事と地価の一覧表を目にしたことがあると思います。
- 「全国の地価●●%下落」
- 「商業地は●年連続の下落」
その発表日にはテレビのニュース番組でもキャスターが経済評論家のコメントを引用しながら報道するので「ああ、あれか!」と気付くと思います。私達不動産鑑定士にとっては残念なことですが、地価動向は発表されても「これらは全国の不動産鑑定士が鑑定評価したものです」と書いてある新聞・ニュースはほんの一部に過ぎません。
公示価格関連用語①:不動産鑑定士
そもそも不動産鑑定士は「土地基本法」「地価公示法」という法律に基づき作られた国家資格であり、その主たる任務は、地価が右肩上がりだった時代に、過度な地価高騰を抑制するため地価の「指標」すなわち「目安」となる価格を求めることです。
「国家資格」ですから、当然「国」が行う作業を担うのですが、それが毎年一月一日現在、あるポイントの土地価格を求め、国民に示す(公示する)のが「地価公示」です。
公示価格関連用語②:地価公示
「地価公示」とは、国(正確には国の機関である国土交通省の土地鑑定委員会)が全国各都道府県の登録した不動産鑑定士に発注・作業させる土地価格の評価作業と結果の公表です。
「公示地価」はこの後にお話をする「地価調査」と一括りで呼ばれるケースが多いのですが、正式名称はそれぞれ「公示価格」と「基準価格」と言います。
公示価格関連用語③:地価調査
皆さんにとっては「地価公示」と全く同じような形で新聞・ニュースで大々的に発表される地価がもう一つあります。発表は秋口です。これは国ではなく、各都道府県が行う「都道府県地価調査」、略して「地価調査」です。「地価調査」とは、都道府県が指定した場所の毎年7月1日現在の価格を不動産鑑定士が鑑定評価した価格を発表するものです。
都道府県がやる事といえども全国単位で地価動向を発表しますから、全国版の新聞各紙やテレビのニュース番組でも必ず取り上げることは言うまでもありません。私は以前世田谷区の担当として「地価公示」「地価調査」「相続税路線価」の評価員をしておりました。その私から「トリビア」かもしれませんが、ワンポイントの知識を教えます。全国各都道府県の市区町村にある評価ポイントの中には「共通ポイント」がいくつか存在します。
公示価格関連用語④:共通ポイント
国の「地価公示」と都道府県「地価調査」の双方とも評価している意味で「共通」な地点です。逆を言えば、数地点を除くと「地価公示」「地価調査」はそれぞれ全く違った地点(「地価公示標準地」「地価調査基準地」と呼びます)を鑑定評価しているのです。
考えてみましょう。全部が別々の地点とすると、毎年1/1現在と7/1現在の6か月間にできた価格差や地価の変動率がわかりません。そこで地域の代表となるポイントを決めて、そのポイントだけは1/1現在価格を求める「地価公示」と7/1現在の価格を求める「地価調査」の両方を行っているのです。こうすれば昨年からの年間変動率はもとより、半年間の地価変動率も把握することができます。このように「公示地価」と呼ばれる価格は「地価公示」「地価調査」の2つあることを是非覚えて下さい。
日本一高い場所はビルが建っている土地だけどなぜ「地価」
これは少し不動産に詳しい方向けかもしれませんが、日本で一番地価の高い場所はどこでしょうか?最高価格は東京・銀座の「山野楽器銀座本店」で過去最高の5,050万円/㎡で11年連続のトップ。地価上昇率の全国1位が大阪の「づぼらや道頓堀店」でした。
ここで何となく疑問を感じた方は不動産について詳しい方のはずです。そもそも「地価公示」「地価調査」は共に「地価」=「土地価格」を求めています。銀座の「山野楽器銀座本店」にせよ、道頓堀の「つぼらや」にせよ、名前の通りビルが建っている場所です。
「ビルが建っている土地の価格をどうやって評価するのだろう?」
実は、「地価公示」「地価調査」はもちろん、この後にお話しする「相続税路線価」「固定資産税路線価」のいずれも「土地上に建物のない更地と(仮定)して」の評価をしているのです。そうでなければ土地価格は建物が建っている状態の価格である「建付地」価格となってしまい、更地と比べ価格が低くなってしまうのです。
独立鑑定評価
鑑定評価上、このような評価方法を「独立鑑定評価」と呼びます。銀座や道頓堀のような商業地なら建て替えや売却で取り壊し中でもない限り「更地」はありません。また住宅地のポイントも建物が建っている土地がほとんどです。私はある地方都市で既定の鑑定実務経験2年を勤めましたが、現況更地のポイントがあったとしても、たまたま更地だっただけであり、翌年には建物が新築されていることが普通です。
そもそも「商業地」はビルが建っているような繁華性の高い場所であり、「住宅地」は住宅を建てて居住している土地の多い場所です。未利用地である「更地」が地域の標準的なポイントである方がおかしいのです。
そこで国の定めた「地価公示法」や、私達・不動産鑑定士の作業手順を定めた「不動産鑑定評価基準」などに従って「土地上に建物等が建っている状態を所与(ありのまま)として、その土地上に建物等が存しない独立のもの(更地)として鑑定評価を行う」、「独立鑑定評価」をしています。
これに対し土地建物一体を所与として、そのうちの「土地だけ」「建物だけ」を評価する方法は「部分鑑定評価」といいます。
公示価格・基準価格は実際の地価と乖離しているのか?
私は不動産鑑定士でもありますが、もともと宅建主任者(取引士)として売買仲介をずっとこなしてきました。そこで、今度は立場を「不動産業者」としてお話します。私が野村不動産の営業マンだった昔、支店長からこう教わりました。「公示価格が150万円/坪だから、これを地価の80%と見て0.8で割り返した坪単価が『みなし相場』だ」と。
これは20年以上前の話なので、東京23区世田谷区周辺に関して言えば、近年こうした「公的価格」と「実勢価格」との乖離は国などの施策で縮まってきました。しかし、私が不動産鑑定士を志す以前はかなりの「乖離」がありましたし、また地方都市へ行くと、今度は公的価格が実勢よりも上になったり、下になったりと、開差が大きな場所もあったりすることも紛れもない事実です。この記事を見ている方には首都圏以外の地方都市にお住まいの方も多いことでしょう。
「公的価格と実勢価格はどの位開きがありますか?」と仮に役所で聞いても「公的価格は実勢価格とイコールです」と言われてしまうでしょう。まして、不動産鑑定士に聞いたら「乖離があります」などと絶対に言わないと思います。
地元に根付いた実績のある不動産業者
一番良いのは地元に根付いた実績のある不動産業者に聞くことです。彼らは自分達が不動産売買の現場で実際の取引価格や、高く(安く)売れた事情もジカに見てわかっています。鑑定士流に言うと「極めて実証性の高い意見」なのです。但し、正直に答えてくれればですが。
不動産業者はその地域毎の尺度を持って「公的価格」と乖離があれば、「0.8で割る」(公的価格は実勢価格の80%と見ている)などの方法で査定を行っています。
なお、かなり多くの方が「周辺相場×土地面積」だけでご自分の不動産価格を計算していると思いますが、土地は道路付けや復員、道路方位、そして土地の形状や規模など様々な要因によって価格が変わります。いずれにせよ、「公的価格」は取引価格の「指標」(目安=参考値)とする旨が地価公示法にも明記されています。
相続税路線価と公示価格との関係
相続税路線価とは、相続税における土地評価の基本となる価格であり、国の税金を扱う税務署が開示しています。この相続税路線価作成に使う「標準宅地」の鑑定評価も不動産鑑定士に与えられた仕事です。
ここでもう一つ「トリビア」をご紹介しましょう。実は不動産所有者に毎年課せられる固定資産税にも「路線価」があるのです。このことは不動産業者の新人レベルだと知らない営業マンも多いはずです。固定資産税は市区町村税なので、都内区部は都税事務所が窓口ですが、それ以外は市区町村の税務課などの担当部署が窓口になります。
この固定資産税路線価の標準宅地も不動産鑑定士が鑑定評価を行っています。但し、相続税路線価が毎年1/1の価格なのに対し、固定資産税は3年に一度1/1現在の価格を評価する点が大きく異なります。良く言う「評価替えの年」が3年に一度です。
さて、ここで相続税路線価と「公示価格」との関係をお話します。実は守秘義務のような秘密ではなく、明確に相続税路線価は「地価公示価格の80%が目安」と一般的にもアナウンスされています。不動産業者の査定でも、査定する場所のすぐ近くに地価公示・地価調査のポイントがない場合、相続税路線価がある場合、これを0.8で割り戻すことによって「みなし公示価格」ベースを把握できます。
なお、固定資産税路線価はほぼ公示価格の70%が目安になっています。相続税路線価は国税庁ホームページに開示されていますが、固定資産税路線価は都税事務所や各市区町村の担当窓口でないと正式版は閲覧できません。しかし近年では、大手鑑定機関の「三友システムアプレイザル」が公開している「TAS(タス)-Map」を使って公示価格、基準価格のほか、相続税・固定資産税路線価をみることができます。以下URLを載せますので、土地価格査定の際などにお使いください。
※TAS-MAPは以前無料でしたが、最近は有料科して登録が必要になったので参考まで。
公示価格まとめ:3つある公的価格は価格査定の「指標」
相続税路線価は地価公示価格の80%が目安
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