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不動産を売却して利益が出ると、その利益額に応じて税金を納める必要があります。不動産売却時の税金は土地・建物の譲渡所得として計算され、最大で税率40%弱程度です。税額を抑えるためには、あらかじめ税金額を計算して、相応の対策をしなくてはなりません。本記事では、不動産の売却を検討されている方に向けて、不動産売却時の税金で損をしないための3つの知識をお伝えします。
不動産を売却して利益があると税金がかかる
サラリーマンとして働いて得た所得が給与所得として計算されるように、不動産を売却して得た所得は、土地・建物の譲渡所得として計算されます。
給与所得は総合課税と呼ばれ、他の雑所得や事業所得などと合算して計算。一方、土地・建物の譲渡所得は分離課税と呼ばれ、綜合課税とは別に計算されます。総合課税は、所得額が高くなるほど税率も高くなる累進課税制度です。一方、不動産の売却で所得があった時の税金は分離課税。分離課税には、所得の金額に限らず一定の税率が課されます。
損をしないための知識その1:取得費をもれなく申請できるようにしよう
土地・建物の譲渡所得では、取得費をもれなく申請することで納税額を少なくできます。そのためには、土地・建物の譲渡所得の計算方法を理解しておきましょう。
土地・建物の譲渡所得を求める計算式
土地・建物の譲渡所得は以下の計算式で求められます。
課税譲渡所得=売却価格-取得費-譲渡費用-特別控除
取得費とは売却する不動産を購入した時に要した費用。譲渡費用とは不動産を売却する時に要した費用です。また、特別控除とは一定の要件を満たすと受けられる控除のことです。
取得費が問題になりやすい
譲渡費用については売却時の仲介手数料や整地費用などを計上できますが、これは売却の時期と近いため用意も難しくないでしょう。問題となりやすいのが、取得費に関する書類です。取得費とは、売却する不動産を購入した時に要した費用。不動産を購入した時の売買契約書や各種経費に関する領収書などを保管している必要があります。
また、建物の価格については、取得時から売却時までの経過年数に応じて建物が古くなった分を減価償却する必要もあります。上記のような手間はあるものの、たとえば5,000万円で取得した不動産を3,000万円で売却するようなケースでは、多額の取得費を計上できるので納税額を大きく抑えることができます。
なお、上記のような書類を用意できない場合には概算法といって、売却価格の5%を取得費として計上することになります。3,000万円の不動産売却でわずか150万円となってしまうため、売却を考えはじめたら、まずは取得時の書類を一式揃えることから始めると良いでしょう。
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損をしないための知識その2:所有期間5年超になってから売却しよう
上記計算式で課税譲渡所得を算出したら、求めた所得に対して税率を掛けたものが納税額です。冒頭でお伝えしたとおり、土地・建物の譲渡所得は総合課税ではなく、分離課税。所得額に応じて一定の税率をかけて計算されます。ただし、土地・建物の譲渡所得は土地・建物の所有期間に応じて税率が変わるようになっており、その税率は以下の通りです。
所有期間 | 所得税 | 住民税 | 合計 | |
短期譲渡取得 | 5年以下 | 30.63% | 9% | 39.63% |
長期譲渡取得 | 5年超 | 15.315% | 5% | 20.315% |
たとえば、課税譲渡所得が3,000万円の不動産の売却の場合、所有期間が5年以下の短期譲渡所得であれば3,000万円×39.63%でおよそ800万円です。それに対し、所有期間が5年超の長期譲渡所得であれば納税額はおよそ400万円と大きく納税額を減らすことができます。
上記のように所有期間が短い売買において税率が高く設定されているのは、いわゆる土地転がしを防ぐ目的からです。所有期間が5年前後という方は5年経過するのを待ってから売却の検討をすると良いでしょう。
所有期間の数え方
土地・建物の譲渡所得については、所有期間の考え方に留意が必要。具体的には売却した年の1月1日時点で所有期間が5年超過しているかどうかが見られることになります。
たとえば、2015年4月1日に購入した不動産を2020年4月1日に売却するケースでは、2020年1月1日時点では4年9カ月しか経過していません。そのため、「5年以下」の短期譲渡所得に該当してしまいます。この場合、2021年の1月以降に売却したほうが、税金面では明らかに得をするでしょう。しっかりと購入時期を確認し、法律上の所有期間を計算したうえで売却時期を決めることをおすすめします。
相続した不動産の場合、被相続人の所有期間も含めることができる
相続した不動産を売却する時も、その利益額に応じて税金を納める必要があります。しかし、このケースでの税金の計算は被相続人が所有していた期間も含めて税率を算出することが可能です。
また、先述の取得費も相続によって一度被相続人から相続人に所有権が移ることになりますが、売却時には被相続人が取得した時に要した費用を取得費として計上できます。土地・建物の譲渡所得は確定申告の時期に自分で計算して算出するため、損する方法で計算してしないように気をつけてください。
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損をしないための知識その3:3.000万円特別控除等特例を活用しよう
土地・建物の譲渡所得については、課税譲渡所得の計算の段階で、一定の要件を満たすことで特別控除を受けられることをお伝えしました。いくつかある特例の中で最もおすすめなのが「3,000万円特別控除」です。この特例は、その名の通り課税譲渡所得の計算において3,000万円分控除を受けられるというもので、非常に高い効果を持ちます。
適用要件も、細かく見ればいろいろとありますが、大きくは「マイホームを売却する」という条件を満たせば、多くの場合で適用を受けられもので、そこまで条件の厳しいものではありません。まずは、売却する不動産がマイホームである場合には、この特例の適用を受けられるかどうかを確認するとよいでしょう。
所有期間10年超の軽減税率
売却する不動産がマイホームであることなどの一定の条件を満たした場合、売却する不動産の所有期間が10年超の場合は「所有期間10年超の軽減税率」の適用を受けることができます。
この特例の適用を受けると、課税譲渡所得6,000万円分にあたるところまで、所得税10.21%、住民税4%、合計14.21%とすることができます。この特例は、先述の3,000万円特別控除との重複適用が可能なので、条件を満たす場合にはぜひ活用すると良いでしょう。
住み替えの場合は住宅ローン控除との重複適用に注意
ただし、3,000万円特別控除は住宅ローンを利用して住宅を購入した場合、住宅ローン控除との重複適用ができないことになっています。住宅ローン控除とは、住宅ローンの年末残高の1%について、所得税と住民税から控除を受けられるものです。
住宅ローン控除は、最大で4,000万円×1%(一定の要件を満たす場合には5,000万円×1)について、13年間適用を受けられるもので、520万円もの税額控除を期待できる効果の高い制度です。
住み替えの場合には、3,000万円特別控除と住宅ローン控除のどちらを利用するのがお得かをよく比較して決めてください。
まとめ:売却時の税金で損をしないために
マンション売却時の税金で損をしないための3つの知識をお伝えしました。
不動産を売却して税金を納める際には、その税額を自分で計算して確定申告する必要があります。最低でも、本記事でご紹介した内容を理解したうえで準備を進めていくとよいでしょう。
相続の不動産に関する税金の話はこちらのサイトを参照してみてください。
監修者:鈴木 良紀
経歴:東京理科大学卒業。大手ゼネコン、ディベロッパー、不動産ファンドを経て、(株)ウィルゲイツインベストメントの創業メンバー。不動産、法律に広範な知識を有し様々なアセットのソリューションにアプローチ。保有資格:宅地建物取引士、ビル経営管理士、一級土木施工管理士、測量士補。執筆活動:投資僧