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前回は、元不動産会社社長で不動産のスペシャリスト・不動産鑑定士の神林先生に、マンション売却時の査定についてインタビューをしてきました。今回は、引き続き不動産業者の選び方について詳しくお話を伺ってきました。
インタビューアーは、上が4月から中学生になる2人の子供を持つスタッフ「B」。手狭になった2LDKのマンションを広めの3LDKに買い替える事を検討しています。
マンションを高く売る秘訣
不動産鑑定士が教える不動産業者の選び方
登場人物
- 神林さん・・・不動産歴は22年、野村不動産(株)流通営業部(現在の「野村不動産アーバンネット(株)」に分社)で売買仲介を経験後、不動産鑑定士として独立。地価公示・地価調査などを行って約10年法人を経営してきた不動産の取引・評価のプロフェッショナル。
- スタッフB・・・子供が大きくなり、結婚当時に購入した2LDKのマンションを広めの3LDKに買い替えを検討中の39歳男性
一括査定サービスってどうなの?
神林先生、今日もよろしくお願いします。
よろしくお願いします。
前回は査定の話が出ましたが、一括無料査定のサービスがありますよね。
ありますね。
昔はチラシを見た業者へ1社1社電話していた事を考えたら、今は随分と便利になっています。
まあ、キッチリと適正価格を知りたいのなら、不動産鑑定士として受けますよ。
あ、いやいや・・・(汗)
鑑定士の先生にお願いする程の物件ではないですから。
ハハハ!そうですか。
私は不動産業者から鑑定士になって、両方やっていましたから、どちらの立場もわかっています。
それに鑑定評価書と無料査定書とには明確な違いがあるのです。
え?どんな事でしょうか?
鑑定評価額は一つ・査定価格は「幅」がある
鑑定士の作る「不動産鑑定書」の結論を「鑑定評価額」と言いますが、評価額は一つしかありません。鑑定評価額は一つの価格に「決定」しなければならないのです。
ところが不動産業者の査定書は「レンジ=幅」を持って価格が書いてあるはずです。
例えば「想定売却価格4,500万~4,600万前後」とか。
へえ~!
それは初めて聞きました。
それぞれ役割が違うのです。
例えば、相続税路線価が幅を持たせて書いてあったら不動産価格が算定できませんよね。
鑑定士の立場だと適正価格は一つだけです。それが専門家としての「判断」です。
だから数人の「先生」に任せると「判断」の違いで価格が多少バラつきます。
それで国の地価公示や都道府県の地価調査では、1つのポイントを2人の鑑定士に評価させて公平性を保っているのですよ。
そうだったのですか。
売却予想価格には「幅」がある
そうなんですよ。
鑑定の話はこの位にして、一括査定の話へ戻しますね。
業者の無料査定書が幅を持たせるのは当然なのです。
え?それは何故ですか?
実際の売買取引では売り出し中に内見する購入客によって高目に決まったり、安く値切られたり、売り出し中の事情で売却価格=契約金額は上下にブレます。
鑑定では「特殊な事情」と呼びますが、実際に野村時代を含めて何度も経験しました。
特殊な事情ってなんですか?
例えば「親の老後を考え、できるだけ近くに住みたい」と考えている方がおられ、たまたま親が住んでいる大型マンションの中に売り物件が出たため、売り出し価格即決で購入したケースがありました。
正直売り出し値が多少相場より高いな、と思っていたのですが、買主にとっては「この物件を逃したら、いつまた出るかわからない」と思い、少し高目でも押さえたかったのです。
なるほど!
確かに同じマンションだったら私もそうするかな・・・
学区もそうですね。「絶対にこの学区で」というケースも同じです。
「どうしてもこの物件にしたい」買主に当たると相場よりも高く売れる場合がありますよ。
親にとっては学区は気になりますからね。
安くする方は「最後の砦」となるのがリノベーションして転売する買取業者です。
安くてもいいから、売る事を誰にも知られずに売りたい、という方ですとズバリ買取業者を紹介して売却したことも多かったですよ。
ストーカーに追われていて、絶対に内緒、しかも一週間以内に売りたい!とか。
ストーカーとは災難ですね・・・
都内の物件はどんな物件でも価格次第で必ず売れる
そうです。
私は鑑定士になる前に地方都市へ移住したのですが、あらためて東京の不動産市場について常に口にする「金言」ができました。
「金言」ですか?是非教えて下さい。
都内の物件に関しては「価格さえ折り合えばどんな物件も必ず売れる」とうことです。
逆に地方へ行くと「価格を下げても使い物にならない土地は誰も買わない」ケースに遭遇します。このことは全国各地をデューデリジェンス(=適正な評価の意味)で飛び歩いた10年程前に痛感しました。
都内に関しては無接道物件だろうと、殺人事件の現場だろうと、価格さえ折り合えば必ず買い手がいるものです。無論、細かい例外はありますけど、長いので省略しますね。
へえ~、そうなんですか!勉強になります。
マンションを高く売るための業者選びとは?
安く売る事は簡単なので、高く売る方の話をしましょう。
ハイ!ぜひ教えて頂きたいです。
正直に申し上げますが、高く売る「魔法」はありません。
もしあればその業者に売却依頼が集中し、あっという間に他業者はツブれてしまうでしょうね。
だからこそ業者選びが非常に重要になってきます。
どんな業者がお勧めですか?
既に何人か不動産会社の社長さん達がいろいろ述べられていますので、鑑定士&取引士である私独自の視点からアドバイスしますね。
まず第一に、一括査定をした場合、査定価格を極端に高く提示した業者は逆にアブナイ!と言います。
えっ?高い査定の業者がいいんじゃないのですか?
極端に高い査定価格を提示する業者は眉唾
いいえ、その逆です。
一括でも、別々に査定を依頼しても、査定に使う資料は全業者全く同じです。
前回も少し触れましたが、REINSや東京カンテイの売却データーなど、ほぼ皆同じ資料を見て机上査定をしています。
それなのに極端に高い価格を付けた業者は何故、高くしたと思いますか?
ええと・・高く売れると思ったからですか?
違います!
売主は高く売りたいから、一番高い査定価格を提示した業者を「最も自分の物件を評価してくれた」と思いがちです。
ところが、おそらく全業者が相場を大体同じレベルで考えている状況で極端に高い価格を付けるのは、「売却依頼を絶対に取りたいから」なのです。
あ、そうだったのですか!
まあ、鑑定士も「判断」の差があるので業者間でも多少格差はあるもの。
でも極端に飛び出た業者は意図的に査定価格を吊り上げていると思います。
だって、どの業者も基本的に同じ資料を見て査定しますからね。
なるほど・・・極端に高い業者は逆にアブナイと?
もっと裏話を明かすと、全業者がおそらく「下駄を履かせる」つまり、想定売却価格に少し上乗せしているはずです。
査定を受けた業者はいずれも売却依頼を、できれば専任で取りたいと思っていますからね。
そうなんですか・・・
極端に安い価格の業者はやる気がない?
そうなんです。
逆に一番低い業者の方がかえって正直だなぁ、と思いますよ。
でも、今度は極端に低すぎる業者もある意味疑問です。
え?低すぎてもダメですか?
そうです。
たまにその業者にとって「やりたくない」物件があります。
査定を受けているのに断るわけにはいきませんよね。
すると極端に安い価格を書けば相手にされないと思い、激安価格を書くケースもあるわけです。
ああ、そういう事もあるのですね!
そうそう。
高すぎ、低すぎ、両方とも少し疑ってかかるべきだと思います。
じゃあ、どんな業者を選べば良いのか?
是非教えて下さい!
不動産は地域密着が今でも原則
販売力がある、広告宣伝力がある、という類は他の方が既に語っておられると思います。
そこで私独自のアドバイスですが、まず売却する物件の「地域」を良く知っている業者を選んでください。
「地域」ですか?
そうです。「地域」です。
不動産って、「地場」とか「地元」という単語が良く出てきますよね。
基本的に「地域密着」が大原則です。ネット時代でも変わりません。
大手業者だったら地元の「地域」を知っている支店を選ぶべきですし、大手以外の業者でも一緒です。物件の所在する「地域」を知らない業者は選んではいけません。
ふむふむ
「全国どこでも」「一都三県全域」などと謳っていても、物件のある「地域」を知らない業者は街の特徴や地域のトレンド、物件の動き、相場観などがわからないので、対応がちぐはぐになる危険が大きいと思います。
できれば学区や小中学校だけでなく幼稚園、保育園など生活利便施設の動向まで押さえている業者がベストです。
なるほど!言われてみればその通りですね。
価格だけで選ぶと危険ですね。
査定価格で業者を選んではダメ
そうなんです!
今日一番お伝えしたい所はそこです。
査定価格が高い業者が一番信頼できる業者ではありません。
「地域」をわかっていて、その中で取引件数もある業者を選ぶべきです。
細かい事を言う前にそれが一番大事です。
わかりました。
それがあって初めて営業マンとの相性や、連絡や対応が素早く、報告もマメにしてくれるなど、「人」との相性問題を考えます。
私は野村時代、世田谷区がエリアでしたが、結構売主さんが軽井沢の別荘地とか、茨城県の龍ケ崎ニュータウンの土地、鎌倉市七里ガ浜東の住宅地など、なぜか「遠征」ばかりしていましてね。
鎌倉や軽井沢ですか。。。大変ですね。
でも、この場合は売主が世田谷区内にお住まいで、非居住用物件が「地域外」にあるケースです。
龍ケ崎の相場なんて、地元の業者でないと分かりません。
売れてるのか?売れてないのか?売れ筋はどの位のサイズで、幾ら位の物件が動いて、動かないのか?
「地域外」だとわからなくて当然です。
インターネットの時代になったとはいえ、机上査定と同じです。
データーを見ただけでトレンドや売れ筋までは絶対わかりません。
なるほど、熱いですね、神林先生!
おっと、少し語り過ぎましたね。(笑)
ここまでのポイントまとめ
- 査定価格・売却予想価格には「幅」がある
- 都内の物件は価格次第で必ず売れるもの
- 極端に高い査定価格は眉唾である
- 極端に低い査定価格はやりたくないケースを疑う
- 不動産は地域密着が今でも原則
- 地域をわかっている業者を選ぶこと
今日は業者の選び方についてお話しましたが、くれぐれも査定金額だけを見て飛びつかないようにして下さい。
あとは「地域」の中の不動産であることを忘れないことです。「地域」を知らない不動産業者は基本的に選ばない方がいいです。
わかりました!ありがとうございます。
次回は業者に売却を任せた後のポイント
では次回、業者に売却を任せた後の事についてお話したいと思います。
今度はかなり踏み込んだ内容になりますよ。
それは楽しみですね!次回も是非よろしくお願いします。