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最近、親族間売買やオークションサイトなどで不動産の個人売買が増えています。一般的には不動産会社に仲介をしてもらって売買をするものですが、個人売買ならば仲介手数料がかからないメリットがありますね。でも不動産の個人売買にはデメリットもあります。そこで不動産個人売買の3つのリスクとその回避方法をお伝えします。
不動産の個人売買にはトラブルがつきもの
不動産の個人売買で起こりうる代表的なトラブルとは?
こちらの記事では、不動産を個人売買するときの代表的なリスクを3つ紹介します。それぞれのリスク回避方法と併せてご覧ください。
- 買主の住宅ローン審査が通らない
- 「売買」ではなく「贈与」とみなされてしまう
- 契約後のトラブル
不動産の個人売買のリスク①:買主の住宅ローンが通りにくい
個人間の不動産売買では、ほとんどの場合で買主の住宅ローン審査が通りません。その理由は、住宅ローン審査に不動産売買の重要事項説明書が必要だからです。
重要事項説明書とは?
重要事項説明書とは、不動産売買に伴う「重要事項」を記載した書類です。不動産会社に仲介を依頼した場合、売買契約の前に重要事項説明の機会が設けられます。重要事項説明ができるのは、宅地建物取引士の有資格者のみ。重要事項説明書は、役所調査などを経て、かなり時間をかけて作られる書類です。ここで物件の重要な詳細情報を、売主・買主・仲介業者が共有することになります。
住宅ローンは不動産を担保にする仕組み
住宅ローン審査になぜ重要事項説明書が必要なのかというと、住宅ローンの仕組みに理由があります。金融機関は住宅ローンを組むとき、該当の不動産に「抵当権」を設定します。「抵当権の設定」を簡単に言えば、不動産を住宅ローンの担保にするということ。万一、債務者による住宅ローンの返済が滞った場合、金融機関はこの抵当権を行使して、不動産を強制的に競売にかけることができます。債務者が返済不能になったとしても、金融機関は不動産を売って最低限の債務が回収できるでしょう。
この仕組みは「不動産の価値が保証されている」上に成り立ちます。金融機関は3,000万円の価値がない不動産に3,000万円を貸したくはありません。重要事項説明書はプロによる物件調査の賜物ですから、「不動産の価値の保証」ともいえる書類。その書類がないと不動産価値の保証もないからです。
金融機関は、重要事項説明書の内容から物件の価値を判断します。また同時に、間に仲介業者が入っている取引きを「信頼できる」と判断します。そのため、重要事項説明書がなければ、住宅ローンの審査対象にもならない可能性が高いのです。
不動産の個人売買のリスク②:贈与税が課税される可能性
売主の「言い値」で不動産を売買するとなると、「贈与」とみなされ、贈与税が課税される可能性があります。
「みなし贈与」は親族間の不動産売買に多いリスク
- 親から子に不動産を譲るから安くしてあげる
- 兄に自分の持分を安く売る
親族間だと、こんな不動産取引きを考えることがあるでしょう。このような場合、安く譲ってもらった方に贈与税が課税されることになります。
贈与税とは、基本的に無償で年間110万円(相当)以上の贈与を受けた人に課税される税金です。不動産売買では、市場価格より著しく安い金額で取引した場合「みなし贈与」と判断され、買主に対して贈与税が課税されることになります。例えば、適正価格が3,000万円である不動産を1,000万円で購入した場合、2,000万円の贈与を受けたとみなされるということです。
贈与税額
贈与税の基礎控除額は、年間110万円です。110万円を差し引いた残りの金額に乗じる税率は、一般税率と特例税率で異なります。一般税率とは、兄弟間、夫婦間、親から子で子が未成年の場合の贈与を表します。一方、特例税率とは、祖父母や父母から成年の子や孫への贈与のことです。
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 一般税率の控除額 | 特例税率の控除額 |
---|---|---|---|
200万円以下 | 10% | ーー | ーー |
300万円以下 | 15% | 10万円 | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 | 30万円 |
600万円以下 | 30% | 65万円 | 90万円 |
1,000万円以下 | 40% | 125万円 | 190万円 |
1,500万円以下 | 45% | 175万円 | 265万円 |
3,000万円以下 | 50% | 250万円 | 415万円 |
3,000万円超 | 55% | 400万円 | 640万円 |
(出展:国税庁)
後々税務署から「贈与税の申告漏れがあります」と言われても、家族間の売買を誰が証明するのでしょうか?その点、不動産業者などの第三者がいれば安心です。
不動産の個人売買のリスク③:契約後のトラブル
不動産の個人売買で一番怖いのは、契約後にトラブルが発生するケース。たとえば、以下のようなトラブルです。
- 「所有権」だと思っていたら「借地権」だった
- 買ってみたら再建築不可の土地だった
- そもそも所有者じゃない人と売買契約を交わしてしまった
- 設備不良が多いけど、言われるがままに瑕疵担保責任を免責にしてしまったから自分で直すしかない…
このようなトラブルの元凶は、主に次の2つのことです。
本人確認が曖昧
不動産売買において必ずするべきは、本人確認です。要は「本当にこの人は物件の所有者なのか」という確認ですね。本人確認は、本人確認書類を提示してもらうだけではいけません。登記簿謄本で所有者を確認した上で、目の前にいる人が本当に当事者なのかという確認が必要なのです。過去には書類を偽造して土地の所有者になりすまし不動産売買のプロである住宅メーカーまで騙す地面師という詐欺事件もありました。
物件調査が曖昧
不動産売買の前には、該当物件の調査も徹底するべきです。所有権はあるのか、シロアリ被害や雨漏りは見られるのか、いわくつき物件ではないか…このようなことは、不動産会社に仲介してもらえば必ず調査する事項です。
ただ個人間売買ともなると、「調査できない」というより「なにを調査すればいいかわからない」というのが本音なのではないでしょうか?個人売買では、まず「知るべきことを知る」ことから始めなければなりません。
不動産個人売買のリスク回避:専門家のサポートが不可欠
不動産売買の一番のリスク回避方法は、不動産会社に仲介を依頼することです。ただし「高額な仲介手数料がネック」という方もいらっしゃることと思います。そんな場合には、部分的に専門家のサポートを受けることも考えてみてはいかがでしょうか?
不動産会社に査定や重要事項説明書・契約書作成のサポートを受ける
「仲介」をお願いする売買の流れは、不動産ポータルサイトに売却したい不動産を掲載したり広告を出し売主や買主を探してもらい、買主が決まったら契約を結びます。
- 買主探しは自分でやる
- 親族間売買だから売主・買主は決まっている
不動産査定や契約書類作成のサポートだけしてもらい、その契約サポートに対して費用をお支払いするのもいいでしょう。査定してもらうのは、不動産の適正価格を知るため。適正価格で不動産取引をすれば、贈与税の課税対象とはなりません。
また仲介はせず、契約書や重要事項説明書などの作成だけしてくれる不動産会社もあります。この場合、「売買金額×3%+6万円」という高額な仲介手数料は請求されず、数万円~数十万円で請け負ってくれることがほとんどです。契約書や重要事項説明書を作成してもらえば、買主の住宅ローン審査が通過する可能性も高まります。
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登記や書類作成は専門家に委託する
不動産会社だけではなく、各専門家のサポートを受けることも考えてみましょう。 例えば司法書士は、登記の専門家。行政書士は、書類作成の専門家です。相続や離婚が絡めば弁護士。不動産の鑑定なら不動産鑑定士…など。その道のプロのサポートを受ければ、不動産売買のリスクはぐっと低くなります。
また不動産登記など厄介な手続きは、プロに頼むことで時短にもなるでしょう。不動産売買の全てを個人間でおこなうのではなく、要所要所で専門家のサポートを受けて安全でスムーズな取引きを目指しましょう。
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個人売買の予定でも不動産会社に査定をしてもらおう
不動産の個人売買でもまずは「適正価格」を知るようにしましょう
この記事では以下の内容を紹介しました。
不動産売買のスタートは、まずその物件の適正価格を知ること。この点は個人間売買だとしても変わりません。不動産会社の査定自体は無料ですし、相談も無料。まずは不動産を個人売買することについての見解を聞いてみても、損はないでしょう。
むしろ専門家の見解が全く入らない個人売買は、本当に危険です。不動産取引きを安く、面倒な手続きを簡素におこないたい気持ちはわかりますが、失敗してしまえば人生をも左右する大損になってしまうことも考えられます。必要なところは専門機関のサポートを受けて、慎重で安全な不動産売買を心がけるようにしましょう。