皆さんは「任意売却」という言葉を聞いた事がありますか?
業者や弁護士などは「任売(にんばい)」と略して呼んでいます。

「任意売却」と対の関係にあるのが「競売」です。
正しくは「けいばい」ですが、TVのニュース番組では「きょうばい」と読むキャスターも多くいます。

「任意売却」「競売」の両方とも金融機関と借金が絡んだケースでの売却方法です。

  • 「任売はメリットとデメリットがあると聞いたけど、実際どうなんだろう?」
  • 「任売だと競売よりも高く売れるらしいけど、本当?」
  • 「そもそも任意売却はどういう流れで進んでいくのか?」

不動産のプロである私でさえ直接自分で任意売却の全てを仕切った経験はないのです。
それだけ任氏売却はその道のプロだけが扱う特殊な不動産の売却方法だと言えます。

それでは「任意売却」とは何か?
「競売」と対比しながら流れとメリット・デメリットについてお話します。

任意売却の流れとメリット・デメリットは何がある?

「任意売却」とは何か?実は「競売」と同じ状況が出発点

「任意売却」「競売」共にイメージ通り、「借金」から始まるストーリーだと思って間違いないでしょう。

例えばマンションの一室を住宅ローンで購入したAさん(40歳)がいるとします。

大卒後、30歳で結婚し、2人の子供にも恵まれ、一人目が生まれた後、35年ローンの住宅ローンを借り入れ限度額まで目一杯借りて購入しました。

しかし幸せな生活を送っていたAさん一家に突然の不幸が怒ります。

「リストラ」です。

今まで年収も1,000万に達していたAさんは大急ぎで転職活動を開始しましたが、以前の年収を確保できる企業が見つかりません。すると毎月20万ずつ払っていた住宅ローンも払えなくなってしまいました。

黄色や赤の「延滞通知」が貸出先の金融機関から毎月送られてきます。

これが3か月滞納ともなると、いよいよ金融機関も「回収」の態勢に入ります。

なんだかイヤ~な家族ドラマですが、住宅ローンを目一杯借りているあなたにも起こりうる事です。

「抵当権」について

ここで「抵当権」についてお話します。

住宅ローンを借りた際には「抵当権設定登記」を購入物件に登記しますが、この「抵当権」は、普通に良く使う言葉の「担保」に関する権利です。

すなわち、返済が不可能となった場合、抵当権者である金融機関は「抵当権の実行」と言って、抵当物件を換価(=売却して換金)することで債権の回収をするのです。

競売について

そこで普通であれば裁判所を入れた強制的な換価手段である「競売」に付してしまうのが基本です。

ところが「競売」には金融機関にとっての大きなデメリットがあります。

競落価格は通常の売買市場と比べてかなりの割安になるため、回収金額が少ないのです。
しかも、競売開始までの期間も3か月前後はかかりますし(競売評価人の鑑定士が評価する時間も必要)、面倒な手続きを踏まなければなりません。

私は鑑定士になるための実務経験を競売評価人の事務所で積みましたので、ある地方で競売評価書をバンバン作っていました。

具体的な評価方法まで書きませんが、様々な「減価修正率」を乗じた評価額は市場価格の1/3以下の物件もありました。都心部の居住用物件は一般の方でも需要があるため地方都市に比べて競売市場での価格は高いですが、普通に売却する価格と比べた場合、確実に低いはずです。

そもそも競売市場価格が安くなる要因として

  • 入札者は競売物件の内見ができない(中を見ないで入札するリスクを負う)
  • 債務者が居住したままでも「占有者あり」で売りに出される(退去交渉は自ら行う)
  • 競売評価書に書かれた事項以外に何らかの権利が付着、又は抵当権設定のない債権者がいる可能性もある
  • マンションの場合、管理費・修繕積立金も滞納額が積み上がっている場合が多い

など・・・書き出すともっと沢山出てきます。

簡単に言うと「わからないリスクが多過ぎる」ということです。
競落価格だけで「夢のマイホーム」になるケースは少ないでしょう。元の所有者が占有者として居座り続ける場合、退去の交渉も全部自己責任ですし、そうしたリスク分を考慮して安くしないと落札されません。

怖い話・・・

余談ですが、私が競売評価人の事務所で修業中、落札した不動産業者が競落物件へ交渉に出向いた所、元の所有権者(占有者)に日本刀でバッサリ斬られて一人が死亡しました。

怖いでしょう?本当の話です。

これに対し「任意売却」(任売)は一般の売買市場で売るのと同じ価格水準で換価することが可能です。

言葉の通り「任意売却」とは「任意」で「売却」するので、強制的に無理矢理売られてしまう「競売」とは異なり、普通に不動産業者が売買仲介に入って売却活動を進めます。

債権者である金融機関も「競売」よりも回収金額が多くなるので「任意売却」の方にメリットがあるのです。

任意売却の流れはまず金融機関からの通知から始まる

「競売」と「任意売却」の導入部は同じと言いましたが、実際にどういう流れなのか?

先程の話を続けますと、

  1. Aさんが滞納3か月~5か月する(延滞通知が届く)
  2. 「期限の利益喪失」と書かれた書面が届く
    つまり「もはや分割払いすることはできないので、全額を一括で払って貰いますよ」という内容です。

「任意売却」を持ち掛けるタイミングはまずこの時点です。

一か月、二か月の滞納では「任意売却」の相談はできないのが普通です。
「期限の利益喪失」=「全額耳揃えて払え」と言われた時点で「任意売却させて欲しい」と貸出先の金融機関に相談を持ち掛けることができます。(2か月程度の滞納で金融機関側から任意売却を持ち掛けられる例もあると聞きます)

最終通告書が来ると、金融機関は信用保証協会に「代位弁済」を求め、債権回収を図ります。住宅ローンを組む時に必ず支払う「ローン保証料」はこの信用保証協会を付けるためのものです。

「代位弁済」されてしまうと登記簿に「代位弁済に基づく求償債権」という登記理由で保証会社が抵当権者に変わります。債務者からすれば、借金を払う相手が金融機関から保証会社に変わっただけにすぎません。

任意売却には債権者の同意が必要

「任意売却」を行うためには債権者の同意を得る必要があります。

金融機関の目的は債権額を換価する担保物件からできるだけ多く回収することです。

いずれにせよ、任意売却を認められるかどうか?

金融機関等は担保物件の値踏みをして判断します。
自行で査定する場合もあれば、たまに私達不動産鑑定士にその仕事が回って来る事もあります。

債権者の同意が得られれば、強制換価手段の「競売」に付すのではなく、「任意売却」によって売却された代金を債務の返済に充当し、改めて残った債務=残債の仕切り直しをすることになります。

なお、「任意売却」は金融機関等が自ら行うのではありません。

現在は任意売却を扱う専門の不動産業者も増えましたし、相談窓口を設けている業者のWEBサイトがネット上に数多く見られます。

以前は「任意売却」というと「弁護士」「司法書士」など法律の専門家が相談と金融機関等との交渉を代行し、提携の不動産業者に売却を依頼するパターンがほとんどでしたが、不動産業界も専門家と提携して様々な集客合戦を行っています。

私の不動産業者仲間の多くも任意売却を扱っていますが、多くが弁護士からの紹介です。

裏返して言うと、弁護士・司法書士は法律の専門家であり、売却行為は宅建業者=不動産業者が行っています。

売却の流れは普通の売却と全く一緒

売却の流れは普通の売却と変わりません。広告や既存客への紹介で客付けし、反応があれば内見希望に応じて内見をしてもらいます。

競売の場合、裁判所執行官と鑑定人は内見しますが、任意売却では通常通り内見して貰いますし、重要事項説明書で告知事項を伝えて契約します。

このように「任意売却」の流れは「競売」と同じく滞納と金融機関から送られてくる滞納通知から始まり、「期間の利益喪失」のタイミングで債権者に相談を持ち掛けて同意を取って初めて前に進みます。

同意を得られなければ、通常通りの流れで「競売」の手続きに進むことになるのです。

任意売却のメリットとデメリット

「任意売却」にはメリットとデメリットがあるので、まとめてご紹介します。

任意売却のメリット

競売と違い一般の売買市場と同程度の価格で売却ができる

金融機関も競売よりも多く回収できますし、債務者も競売より残債を減らすことができます。

引っ越し・明け渡しの時間的余裕が得られる

競売は一定の期間内に立ち退かない場合、不法占拠者とされ法的に追い出されますが、任意売却では購入者=新所有者との交渉である程度時間的余裕が作れるはずです。

売却代金から引っ越し費用を作れる可能性がある

あくまでも債権者である金融機関の合意が前提ですが、立ち退き費用もない債務者ゆえに、売却代金が競売より多く得られることから、その一部を引っ越し費用として残して貰える場合があります。

心理的負担が少ない

あくまで「競売と比べたら」の話ですが、法的とはいえ、裁判所側のスケジュールでどんどん進んでしまう強制換価手続きに比べれば「任意売却」はまだ自由度もあり、ご近所にも通常の売却と同じなので目立ちません。

交渉次第では「賃借人」として住み続けられる「可能性がある」

良く「リースバック」と呼ばれますが、新所有者と交渉が成立すれば、無償とはいきませんが、賃料を支払うことでそのまま住み続けることができる場合もあります。

任意売却のデメリット

滞納が必要なため信用情報=ブラックリストに載ってしまう

競売でも同じことは言えるのですが、3か月以上の滞納や、まして代位弁済されれば金融上の信用情報=俗にいう「ブラックリスト」に載ります。その結果最低5年間、住宅ローンは無論のこと、クレジットや融資も全て不可能になります。カードも作れませんし、使えなくなります。

債権者の同意が得られる保証はない

近年は昔の住宅金融公庫だった住宅金融支援機構も任意売却をどんどん勧めて回収を図るようですが、金融機関等の想定売却価格と、支払い不能に陥った残債額との開きが大き過ぎる場合等、様々な理由で断られるリスクは少なくありません。

任意売却をどこに依頼するかわからない

一番大きな問題はココでしょうね。私は現時点では宅建業者ではなくなっていますが、もしまだ宅建業者であっても任意売却の経験のないまま受けたくありません。それだけ任意売却を任された方は面倒な交渉や手続きの連続です。大手業者であればいいとも限りません。専門性と経験を持った業者に任せる必要があります。

ここで注意点があります。

融機関が指定する業者に丸投げしてはなりません!
「お抱え」の業者は債権者の「手先」ですから、価格もそうですが、金融機関が「売れ」と言えば安値でも決めてしまうでしょうし、公平の観点から見て妥当な選択とは思えません。やめた方がいいです。

まとめ

任意売却は競売よりはマシでも傷を負う点では同じこと

今回は大まかな任意売却の流れを競売との対比でお話しました。任意売却にはメリット・デメリットがあることも分かったと思います。

初心者向けに分かりやすく書きましたので、連帯保証人との関係など省略した事項も多くあります。

一番知りたいことは「どこに任せたらいいのか?」という疑問でしょう。私は公平の観点から記事を買いているためお勧め業者を紹介できませんが、より専門性の高く実績のある業者を選んで下さい。

不動産鑑定士・宅建取引士。1966年生まれ。早稲田大学社会科学部卒業。野村不動産(株)流通営業部(現・野村不動産アーバンネット株式会社)のリテール向け売買仲介営業マンから不動産鑑定士に転身。独立後約10年間法人経営者として宅建業・鑑定業を営む。法人の営業譲渡後「神林不動産鑑定士事務所」代表として執筆活動や不動産コンサルタントを行っている。